中古物件の査定価格の決め手は参考にする過去事例の量と質
不動産の中古物件の価格査定は、一般に以下の方法で行われると言われています。
取引事例価格 | 近隣の類似物件の成約事例と比較し価格を算出する |
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収益還元価格 | 賃料収入と期待する利回りにより、収益性を元に価格を算出する |
積算価格 | 土地、物件の原価から価格を算出する |
特に中古物件では、取引事例価格が重視されます。そのため、参考とする取引事例データの量と質は物件の価格設定に強く影響します。
お問い合わせ国土交通省の不動産取引価格データベース上の物件取引事例を参照する
過去の取引事例データとして、国土交通省により不動産取引価格情報データベースが整備されています。このデータベースには、平成17年から現在までに全国で取引された物件のデータが登録されています。
物件について、種類(中古マンション、宅地、農地等)、所在地(都道府県、市区町村、町名)、取引総額、面積、築年数などが300万件以上記録されており、だれでも無償で利用することができます。このデータベースは四半期ごとに新たなデータが追加され、直近の事例を参照することができるようになっています。
表計算ソフトでは扱えない大規模なデータを参照したい
査定においては、このデータベースから過去事例を参照し価格の目星をつけることができます。しかし、事例の数の多さのため、査定物件に似た事例を適切に抜き出して可視化することに手間がかかる問題がありました。
そこで今回、BIツール(ビジネスインテリジェンスツール)として知られている「Tableau(タブロー)」を用いて、30万件を越える既存取引データから物件価格に目星をつけるための価格帯調査を行いました。
Tableauにより中古マンション物件取引データを可視化する
分析に用いるデータ
データは国土交通省の不動産取引価格情報から取得しました。取引時期は最も古い平成17年第3四半期から、最新の平成29年第2四半期の東京都の取引データ(約30万件)を取得しました。
データの可視化
今回は、簡便化のため東京都内の中古マンションの取引データに限って物件価格の可視化を行いました。
お問い合わせ1.取引価格と物件の面積の関係の可視化
物件価格は過去事例を参考に決められること、価格策定の際には物件の面積や築年数が重視されることから、まず取引価格と物件の面積の関係を可視化しました。
図中の点は個々の取引を表し、市区町村ごとに色を変えて示しています。横軸は床面積(平米)、縦軸は取引価格(百万円)を示します。図の右側の市区町村をクリックすると、その市区町村が強調表示されます。
図から、都内全域では取引価格と面積には一見関係なさそうに思われます。しかし市区町村ごとに強調表示すると、取引価格が面積に比例する傾向がみられました。また、港区や品川区の物件には面積に対して抜きんでて高価な物件がみられることがわかりました。
2.市区町村・地区ごとに取引価格と面積の関係を確認
取引価格は面積に比例することが確認できました。そこで、さらに町名で分けることで面積に対する取引価格帯を絞り込むことができないか調べました。また、取引価格と築年数に関係がないか、色分けして可視化しました。
その際、物件取引データには建築年(「平成〇年」といった年号+年数のフォーマット)と取引時点(「平成〇年第△四半期」といった年号+四半期のフォーマット)の値しかないため、記載を正規化し、築年数を計算する処理をTableau内で実装しました。
図中の円は個々の取引を表し、取引時の築年数に応じて色を変えています。横軸は床面積(平米)、縦軸は取引価格(百万円)を示します。築年数を丸の色の変化で示し、築年数の短い物件は青色で、長い物件は赤色で示しています。築年数の増加を虹色のグラデーションで示しています。
図から、例えば港区の芝浦においては面積と取引価格(総額)に強い正の相関がみられ(相関係数0.830)、面積に対して取引価格が比例していることがわかります。さらに、例えば面積が50平米で築年数が10年程度の物件は4000万円から6000万円程度の価格帯で取引されていることがわかりました。
3.築年数と売れ行き具合の可視化
物件価格は面積と築年数からある程度見積もれることがわかりました。そこで最後に、物件の築年数と売れ行き具合を可視化しました。
図の横軸は取引時の築年数で、縦軸は各地域に絞った時の全取引に対するその年までに取引された物件の割合を示します。
港区芝浦においては、50%のラインに初めてぶつかる年数は築10年であることから、取引の50%は築10年以下の物件で占められていることがわかります。竣工後4年までに25%の物件が取引されていること、25年までに75%の物件が取引されていることがわかります。
そのほかに、取引された物件の割合の増加具合から、竣工直後から築13年程度までの物件は順調に売れていることがわかります。一方で、築13年から25年程度の物件はあまり取引されていないこと、25以降はゆるやかに取引が発生していることがわかります。
この図からは、売りたい物件にどれくらいの取引発生の期待が持てるかを確認することができます。例えば築5年程度の物件でしたら比較的すぐに取引できる可能性がありますが、築15年以上ですと腰を据えて待たないといけないかもしれません。
お問い合わせまとめ
今回は中古マンション物件の取引データを可視化しました。その結果、面積に応じた取引価格帯と、築年数に対する売れ行きのにぶり具合を可視化することができました。
港区に絞って図を作りましたが、他の市区町村・都道府県でも数クリックで同様に可視化することができます。
また、Tableau内で築年数を算出し、可視化に用いました。取引時点と建築年の単なる引き算ですが、データサイズの大きさから、同様の処理を表計算ソフトで行おうとするとソフトウェアがクラッシュすると考えられます。そのため、例えば一度データを分割した上で算出し再結合するなど、大きな手間がかかると予想されます。
Tableauならば、そのような時間と人手の必要な作業を手早く正確に安定して行うことができ、業務の効率化に大きく寄与します。
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記事中の図はすべて、国土交通省不動産取引価格情報を加工して作成致しました。