ビッグデータの活用例として、製品やサービスのレビュー分析があります。ECサイトやグルメサイトなどに投稿されているレビューはお客様の声を直に得ることが出来る貴重なデータであり、Webマーケティングを行う上で重要な役割をもっています。
モバイルバッテリーや急速充電器等で知られる中国の家電メーカーAnker(アンカー)社では、ECサイトで低評価がついたレビューを随時確認、クレーム意見をエンジニア内で共有し、次世代の製品にフィードバックをすることが企業の文化となっています。Anker社は、レビューによる継続的な製品改善により、創業わずか9年で時価総額9000億円超(2020年8月24日時点)の大企業へと成長しました。
Anker社の成功事例以外でも、レビュー分析を製品企画や改善に活用した事例は多数あります。しかし、一つ一つのレビューを確認することは出来ても、大量のデータを収集し、データ全体の傾向や変化の推移を把握するのは容易ではありません。
キーウォーカーでは、
までを支援するサービスを提供しています。今回はレビューデータの分析と結果の可視化について紹介します。
目次
分析のターゲット
今回レビュー分析のターゲットとして、新型コロナウイルス感染拡大により増加したWeb会議において、欠かせない存在である「ヘッドセット」を題材としました。
自社で集めたクチコミを分析するよりも、ECサイトに投稿されたレビューは、より率直な意見が書かれることが多い上、他社の製品のレビューも取得できるため、より客観性が高い分析が行えます。
また、これらレビューは大量に存在しており、人力で全てを収集するのは困難なため、Webクローラーを用いることによって短時間で自動的にレビューを収集することが可能となります。 今回はメーカーの製品開発者やマーケティング担当者からの依頼を想定し、ユーザーに好まれる優れたヘッドセットを開発するために、ヘッドセットの最近のトレンドや、ヘッドセットの使用者がどのような要素について重要視しているかを把握できるようにすることをデータ分析の目的とします。
レビュー分析ダッシュボードの紹介
こちらが弊社が開発したレビュー分析ダッシュボードのイメージとなります。
このダッシュボードを用いることでレビュー内容の確認はもちろん、製品の点数評価の集計結果、レビュー数の推移、レビュー内容に使用されている言葉の特徴まで分析することが出来ます。 早速ダッシュボードの機能について見ながら、実際にデータ分析をしてみましょう。
1.商品の市場、各製品の需要のトレンドを把握【時系列変化】
レビューの件数の推移を可視化するグラフです。年・月ごとにレビューがあった件数を集計し、棒グラフにしています。これによりヘッドセット全体の需要の変化、または各製品のトレンドについて分析が可能です。
年毎のレビュー数の推移を見ていくと、2011年以降徐々にレビュー数が減少しています。購入する人が少なくなることでレビューを書く人も少なくなるため、ヘッドセットの需要は減少傾向であることが推測されます。このグラフの範囲を2年間に狭め、月単位で表示するように設定します。すると以下のようなグラフとなります。
年単位ではレビュー件数は減少していましたが、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛があった2020年4月以降に急にレビュー件数が増え、6月にピークが来ています。このことから社会情勢によりヘッドセットの需要が上がってきていることがわかります。
まとめ
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2.自社/競合商品の長所、短所を把握【製品選択機能】
上部にある製品リストを選択することで、その製品に対するレビューのみ下段に表示されるようになります。これにより、製品ごとの特徴やトレンド、詳細なレビューが確認出来ます。
レビューはポジティブなレビューとネガティブなレビューが分かれて表示されるため、目的に応じて使い分けることが可能です。
また、その製品のレビュー数や、その製品についてのレビューのみで集計した際の満足度などの指標の平均を確認することが出来、それにより、その製品の各指標を網羅的に確認することが出来ます。レビューの評価が全体と比べて高い・低いかで色分けがされており、製品の長所や弱点などが一目で確認出来ます。
今回選択した製品では満足度、デザイン、音質に関しては平均以上の評価を得られていますが、つけ心地のみ他の製品よりわずかに劣っているという評価であることがわかります。この結果を踏まえ、この製品はなぜ満足度等は高いか、つけ心地は悪いか、等を意識しながらレビューを確認することができます。
まとめ
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3.商品に対し、ユーザーがどのような要素を重視しているか【特徴語ポジショニングマップ】
レビューに存在する単語の特徴を示すグラフです。位置関係によってレビューにおける各単語の要素が表現されています。中央付近は文字が入り組んでいますが、マウスカーソルを重ねることで文字が分かるようになっています。このグラフを確認することで、「ユーザーが多く話題に挙げる要素」「ユーザー満足度に強く関わる要素」「製品やメーカーに特有な要素」といった、目的に合わせた製品の重要要素の分析が可能となります。
グラフの意味について解説します。右に行けば行くほどより多くのレビュー内にその単語が存在したということとなり、多くの人が話題に出している言葉、つまり重要な要素であると考えている人が多い言葉であることが分かります。今回の例では、”フィット”、”性能”、”マイク”などの単語はグラフの右側に存在し、多くの人が話題に出している単語であるということがわかります。
上に行けば行くほど、この単語が入っていた時の満足度が高いということを示しています。この指標は、その単語が入っているレビューの満足度の平均と入っていないレビューの満足度の平均の差をパラメーター化したものになっています。そのためこの値が大きい単語は、良い製品であるための重要な要素となる可能性が高いと考えられます。今回の例では、”シンプル”、”クリア”、”高音”、”バッテリー”などの単語は高い位置にあり、この要素がユーザー満足度に大きく関わる重要な要素であるとわかります。また、”耐久”、”動作”、”雑音”といった単語は低い位置に存在しますが、これらの単語は決して重要ではないというわけではなく、これらの要素を改善することで、満足度を高くすることが出来るというヒントにもつながるため、これらも重要な要素であると分析できます。
製品名やメーカー名を指定することにより、単語に色がつくようになります。指定した条件のレビューにその単語が多く含まれているとその単語が緑色の表示、逆に少ない場合は赤色の表示となります。こうすることにより、製品やメーカー別の特徴をつかむことが出来ます。
画像は、メーカー”ABC電機(仮名)”を選択した状態です。”高音”や”低音”等といった文字が緑色となっており、ABC電機の製品が”高音”や”低音”について特徴的であるということが分かります。
こちらは、製品”Headset J(仮名)”を選択した状態です。Headset Jは通話に関してのレビューが多いのが特徴な反面、低音について話題に挙げられておらず、弱点なのではないか、という分析が可能です。
どの要素が重要であるかは分析の目的に応じて変わりますが、この要素を踏まえることで、製品に必要な注目すべきキーワードを把握することが出来ます。
グラフ内の特徴語をクリックすることにより、その言葉が使われているレビューを表示します。重要度の高いワードが使われるレビューを確認することで、消費者の購買時に商品のどのような特徴に興味を持つか、どのような点をもとに商品を評価するか、等を分析します。
特徴語を選択することで時系列変化のグラフもその単語の使用頻度の推移を表すグラフに変わります。
例えば、”シンプル”という単語を選んだ時、時系列変化として2017年以降に使用される頻度が増えているため、最近のトレンドとしてシンプルな物が好まれるのではないか、等といった分析をおこないます。”シンプル”が重要なキーワードと判断したら、その単語が入ったレビューを確認したり、そのキーワードが入ったレビューのある製品のデザインを確認する、などを行うことで更なる開発のヒントに繋げられます。
まとめ
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さらに発展した分析に向けて
今回はレビュー分析が行えるダッシュボードを紹介してきましたが、今回紹介したこと以外にもアイディア次第で様々な分析が行えます。 レビュー分析ダッシュボードを活用するメリットとして、目的に応じて様々な機能を付与することが出来る点です。
データ分析者とダッシュボード開発者が関わりあうことにより、最適なダッシュボード開発が可能となります。 以下に、このダッシュボードを更に発展させるためのアイディアを記述します。
詳細なレビューデータの活用
レビューページには今回ダッシュボードに盛り込んだ内容以外にも多くの情報が存在するため、様々な切り口からの分析も可能です。製品の価格情報を取得し、同価格帯の製品のみで比較したり、レビュー自体に対する評価の数値を利用し、レビュー自体に重要度を付加するなど、レビュー分析に使用できる要素は様々です。
レビューデータの定期更新
製品のレビューは常に投稿され続けています。レビュー情報を定期的にクローリングし、データを結合することにより、常に最新の情報を盛り込んだ分析が可能となります。
最新の情報は、現代社会のトレンドを表すものであるため、常に最新の情報を追いかけることは、現代社会のニーズを満たす製品開発の重要な要素となります。
Google BERTの活用
今回作成した特徴語のプロットは、その単語が使用されている・されていないの差で単語の重要度を求めるという単純なものでしたが、より精度よくポジティブ・ネガティブな特徴語を抽出する技術としてGoogle BERTがあります。
BERTでは文脈を考慮した文章の分析が可能です。BERTでネガポジ分類を行うにあたり、文章のどの部分に注目したかというattention weightを算出することによってポジティブ・ネガティブな特徴語の抽出および重要性の定量化が可能になります。
今回作成したダッシュボードの特徴語リストでは単語単位のみで重要度を計算してきたため、例えば、「デザインが良い」というレビューも「デザインが悪い」というレビューも同様の「デザイン」という分類で集計してしまい、正確な集計が出来ていません。文脈を考慮することにより、より正確な重要度の算出が可能となります。
さらに、ネガティブ・ポジティブだけでなく、品質・機能・充電性能といった項目ごとの特徴語の評価も可能です。レビューサイトで設定されている指標の項目を超えた特徴を捉えることも可能となります。
まとめ
今回は製品レビューデータの活用事例について紹介してきました。レビュー分析ダッシュボードを用いることによって、誰でも直感的な操作のみでレビュー分析を行うことが出来ます。 レビューデータの活用は企画開発、品質改善等に大きく影響を与えるため、現代のビジネスには欠かせない存在となっています。
キーウォーカーではデータ収集、分析、可視化という3つの得意な技術をもっており、レビュー分析のために大いに活用していただけたらと思います。