- 商品の販売データが溜まってきたが、うまく活用できていない。
- 需要に応じた適切な値段設定がしたい。
- 商品の値段設定がカン・コツに頼った属人的な業務になっている。
キーウォーカーでは、上記のような課題解決のお手伝いをするべく、需要予測およびダイナミックプライシングアルゴリズムの開発を行っています。
そこで本記事では、ダイナミックプライシングの概要と、実際に需要予測をしプライシングをする流れについて簡単に紹介します。
ダイナミックプライシングサービスの詳細ダイナミックプライシングとは
ダイナミックプライシングとは、需要と供給に応じて価格を変動させる仕組みです。需要が多い状況(時期や曜日等)では、価格を高く設定することで収益を増やし、需要が少ない状況では、価格を低く設定することで需要を喚起し、機会損失を防ぎます。この仕組みによって収益を増加させることが、ダイナミックプライシングの目的です。
ダイナミックプライシングは、航空券やホテルの宿泊料を始めとし、スポーツ観戦などのチケットやECサイトなど、多くの業界で実際に導入されています。
メリット・デメリット
メリット
まずは、収益の最大化です。上述の通り需要に応じて価格を設定するため、収益の最大化が見込めます。また、在庫を抱えすぎてしまうといったことも防ぐことができます。
すでに人の手で価格の変更を行っている場合でも、価格設定にかかっていた作業時間や人件費の削減をすることができます。さらには、これまで属人的だった業務を人工知能に委ねられるため、どなたでも最適な価格設定を行うことができるようになります。
デメリット
消費者の立場から考えると、需要が多い時期に価格が高くなってしまうため、買い控えや、顧客満足度の低下に繋がるリスクがあると考えられます。
買い控えに関しては、価格の変動による需要の変動(需要の価格弾力性)を考慮した価格設定をすることで防ぎます。
また価格の高騰による満足度の低下ですが、逆の見方をすると、需要が少ない時には安く購入できるというメリットにもなります。そのためこのことは、すでに導入されている業界があるように、時間とともに消費者に受け入れられるようになると考えています。
ダイナミックプライシングの流れ
まずは需要予測を行います。この予測は、過去の実績データをもとに需要の傾向を分析し、統計的手法や機械学習を用いることで行います。
簡単な例としては、平日や休日、季節等での需要の変化を分析し統計的に今後の需要を予測するまたは、天候やイベントの有無等を含めたデータから、決定木を生成して予測する(ランダムフォレスト)などです。
- 需要予測の結果が出た後、プライシングを行います。
- プライシングは需要曲線と供給曲線を用いて行います。
- 需要曲線は、ある価格に対して需要者が買いたいと思う数量を表します。
- 供給曲線は、ある価格に対して供給者が売りたいと思う数量を表します。
これらを用いてプライシングしますが、イメージとしては下図のようになります。
過去データや需要予測の結果を用いて定義した需要曲線と、事前に定義しておいた供給曲線の交点を基準価格とし、そこから一定の範囲で売上を最大化する点(価格)を探索します。
さらに、実際にプライシングをした実績データを用いて下記のような処理を行い、精度を高めていきます。
需要の価格弾力性(需要曲線)の最適化
一般的に価格が上昇すると需要は低下(買い控えが発生)しますが、その度合いを表したものが、価格弾力性となります。正確には、価格の変化率に対する需要の変化率のことです。そのため、値段を上げすぎて極端な買い控えが発生するといったことがないように、需要の価格弾力性を考慮して、プライシングすることが重要となります。
これを実現するために、実績データを用いて下図のように価格弾力性(需要曲線)を最適化します。
運用前はデータが存在しないため、図のように需要曲線を仮定しますが、運用後はデータが蓄積されるため、需要曲線が最適化されるといったイメージとなります。
なお、運用前の需要曲線の仮定は、これまでの価格や平均需要などから仮定しますが、過去の実績データがある場合はそれを用います。
ダイナミックプライシングサービスの詳細・需要予測の不確実性を考慮し、リスクを最小化するプライシング
需要予測の結果が、実際の需要と完全に一致するとは限りません。そのため、プライシングの際に需要予測の不確実性を考慮します。需要予測の結果がD_oの時、需要の予測を確定的にではなく、予測のばらつき(不確実性)も考慮し、その確からしさを含めた確率分布モデル(正規分布等)で定義します。
(グラフ中の分布)。そして定義した分布を売上の分布(右の分布)へと変換します。この売上の確率分布をもとに経費等を考慮しリスク(損失)が最小化された価格を確率論的に導出します。
具体的事例
ここまでの流れのまとめとして、テレワークの浸透などで、テレワーク機材(Webカメラやヘッドセット)の需要が増加したときを例にして、流れをおさらいします。
まずテレワーク機材の需要が増加すると、需要曲線は右にシフトします。このときの右シフトの大きさが需要の増加量を表しています。そのため、人工知能による需要予測によって、右シフトの量を求めます。その結果、供給曲線との交点が変化し、価格も増加します。
そしてここから、売上を最大化する点を求めます。このとき、需要予測の実績データが溜まっている場合には、それを用いて不確実性を考慮し、損失の最小化も行います。
以上の流れで、最終的には「売上の最大化と損失の最小化を両立した価格」を設定します。
まとめ
今回は、需要予測とダイナミックプライシングについて紹介しました。
需要予測やダイナミックプライシングは、様々な業界で適用できるため、興味を持って頂けたら幸いです。
ダイナミックプライシングの流れでは、需要予測に必要なデータはあるが、これまでに価格を変動して販売した実績がないことを前提に話をしました。その中で、プライシング部分は統計的な処理としましたが、強化学習も用いることもできると考えています。一方で、価格変動の実績データがある場合は、プライシング部分も事前に教師あり学習することも可能です。
需要予測やプライシングは不確実な要素を含みますが、引き続きの開発で精度を高める努力をしていきます。
最後になりますが、弊社ではこのようなモデルの開発に加えて、ダッシュボードの開発も行っておりますので、その紹介をして終わりとします。
実際に運用する際には、このようなダッシュボードを見ながら、価格設定をします。
以上、ダイナミックプライシングの紹介でした。